NPO法人ベースボールスピリッツ理事長、
宝塚ボーイズ監督 奥村幸治 氏の
イチロー氏にまつわるお話です。
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※『致知』2010年6月号より
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オリックスで打撃投手を務めていた頃、
不調に陥った選手に
「投げましょうか?」
と声を掛けると、ほとんどの場合、
「頼む」と答えが返ってきた。
そんな中、私の申し出に
一人だけ首を振った選手がいた。
当時20歳だったイチロー選手である。
試合後にその理由を尋ねてみたところ、
「僕はこんな心境で試合に臨みたいんです」
と彼は言う。
「どんなに好きな野球でも毎日続けていると
もう疲れた、今日は嫌だなと
思う時ってないですか?
そうなっては、自分の能力って
絶対に発揮できないですよ。
バットが持ちたくてしょうがない。
そういう心境で、
僕は試合に臨みたいんです」
そして彼はこう後を続けた。
「初めてお父さんとキャッチボールした時、
どんな気持ちになりましたか?
またやりたいなと思ったでしょ。
その気持ちなんですよ。
その気持ちが自分でしっかり作れれば、
絶対に技術って向上していくと思いますよ」
イチロー選手のプロ入り3年目の年、
彼の専属打撃投手となった私は、
寮生活で1年間寝食をともにし、
多くのことを教わった。
キャンプ期間中、
二軍でプレーしていたイチロー選手は、
夕方に練習を終えると、早々に眠りに就いた。
そして皆が寝静まる深夜にこっそり出て、
室内練習場で数時間の
特打ちをするのを日課としていた。
ところがシーズンが始まり、
一軍入りを果たした彼は、
全くと言ってよいほど練習を
しなくなってしまったのである。
不思議に思って尋ねてみたところ
「体が疲れ過ぎると
バットが振れなくなるから」
とのことだった。
一軍でまだ何の実績もない選手が、
自分のいまやるべきことは
何かをちゃんと理解して行動している。
私の知り合いにもプロが数名いたが、
彼の取る行動や言葉のすべては、
他とは一線を画すものだった。
例えばこんな調子である。
「奥村さん。“目標”って高くし過ぎると
絶対にダメなんですよね。
必死に頑張っても、その目標に
届かなければどうなりますか?
諦めたり、挫折感を味わうでしょう。
それは、目標の設定ミスなんです。
頑張れば何とか手が届くところに
目標を設定すれば
ずっと諦めないでいられる。
そういう設定の仕方が
一番大事だと僕は思います」
イチロー選手には自分にとっての
明確な目標があり、その日に
クリアしなければならない課題がある。
その手応えをしっかりと自分で掴むまで、
時間には関係なくやり続ける
という練習のスタイルなのだ。
私が彼の基盤として考えるもう一つの要素は、
継続する力、つまりルーティンを
いかに大切にしているかということである。
ある時、イチロー選手に
こんな質問をしたことがあった。
「いままでに、これだけはやったな、
と言える練習はある?」
彼の答えはこうだった。
「僕は高校生活の3年間、
1日にたった10分ですが、
寝る前に必ず素振りをしました。
その10分の素振りを1年365日、
3年間続けました。
これが誰よりもやった練習です」
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自分で目標を持ち、それに向けての、
努力を継続できる人は強いですね。
いつも誰かから
与えられて熱くなる人よりも、
自分から燃えていける人の方が
やっぱり信用もできます。
ワクワクした気持ちを持つためにも
疲れ過ぎるまでやらないってことも
忘れずに、スケジュールを立てて
いきたいですね。
END